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執筆者の写真反田孝之

渡地区からの撤退

うちの経営農地は95%が借地である。特にこの3年を中心に、その農地をたくさん返してきた。一番顕著なのがゴボウを栽培する田津地区。多い時は12haあったが、今ではわずかに2haを超えるほどである。ここは土が素晴らしくゴボウ以外でも大豆でも何でも良く育つ。しかし頻度の上がった洪水に経営が耐えられなくなったために、ゴボウが良く育つ圃場のみを残して毎年少しずつ返してきた。このたびまた、洪水時に川砂が流れ込む圃場0.3haを返す手続きをしている。


そしてこのたびは田津地区以外に、渡地区をすべて返すことにしている。これまでずっと1.4haを耕作してきて、昨年0.5haを他人に譲った。このたびは残りのすべてを返して、この地区から撤退することにしたのだ。


ここは私が育った地区で子供の頃によく遊んだこともあって、農地への愛着はひとしお。そして田津地区と同様、高木が生い茂る遊休地を20年前に開墾して畑に戻して以来ずっと耕作してきた農地でもある。返すのは断腸の思い。


(2019年6月の渡圃場。大豆の播種中。右は親父が立てた作業場。かつてはハウスが3棟並んで建っていて花卉栽培を親父とお袋とでやっていた。中央白い被覆はコケ栽培。昨年作業場を他人に譲り渡して親父も撤退してしまった。)


ここは堤防に囲まれているし、イノシシ被害もほぼないので、そういう意味では1等地と言っていい。しかし困るのが、完全に「砂土」なのだ。保水性がまったくないと言っていい。それで暑さの厳しい夏には大豆が弱って育たず、ついにここ2年連続で収量がゼロになってしまった。


またここはゴボウも厳しい。地中に人の頭ほどの巨石がゴロゴロしていてトレンチャーが掛けられない。さらには扇状地地形全体を扇端で囲むように堤防が踏み固めてしまっていて水脈が途切れているためだろう、地中深くまで砂土であるにも関わらず、洪水時に堤防の内側に内水が少しでも溜まった折には、水が引いた後、何日経っても地下水位が下がらないという欠点がある。これではゴボウは根腐れを起こしてしまう。目に見えない堤防害の典型だろう。


大豆もゴボウも育たない圃場を1ha近くも抱えることは、今のうちには無理である。そして、うちが返した後に誰にも耕作されることなく元の高木生い茂る遊休地になったら困るという主張もよく分かる。しかし農地管理の負担は農業者に押し付けておけばいいという考え方が成り立つ時代ではもはやない。


断腸の思いの一方で、忙しい時期に何かと機械を回送して臨む負担がこれからはなくなるのだと思えば、つくづく気持ちが楽になる。そして大豆の平均収量が上がるということ。何かとデータとして平均収量を見たがる向きはあるけれど、内実ではそれを左右する事情がいろいろあるものだから、あまりにくだらない。くだらなくても補助金の受給には大きく関わることになるから、無視することもできない。私らはこういう虚しさや諦めをしばしば抱いてやっている。

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